「カナダ」と聞いて最初に思いつくもののひとつに、「国旗」が挙げられるのではないでしょうか?
白地に赤のメープルが模られた、印象的な可愛らしい旗でありますが、実はこの旗、国旗として使われ始めてまだたったの40年なんです。 そしてその制定までには、ちょっと一言では語れない長い長い歴史がありました。
というわけで今回はカナダ国旗と、実はその国旗よりもカナダ国内で目にする機会が多い、各州・準州合わせて13の、それぞれの「州旗」をご紹介いたします。

今年でやっと制定40周年を迎えたカナダの国旗。
1965年、「Flag Debate(国旗大論争)」と呼ばれる大議論の末、現在の赤白ストライプにメープルというデザインに決定しました。
何故国旗制定がそんなにも一大事だったのか?というと、これはカナダという国の成り立ちにとても深く関わっています。
もともとイギリス領であったカナダ。 それまで「国旗」といえばもちろんイギリスのユニオン・ジャック、または「Canadian Red Ensign」と呼ばれる、左肩にユニオン・ジャックをあしらった旗を100年近く使用していました。
これに「『カナダのためだけの』国旗が欲しい」との世論が高まり、1958年の調査では実に有権者の80%以上が「カナダ国旗」を望んでいることが判明。
それを受けて立ち上がったのが自由党のリーダーだったLester B. Pearson(トロントの国際空港の名前、レスター・ピアソン空港は彼の名前から取ったもの)。
新国旗の制定を認めようとしなかった当時の内閣を相手取って、「自分が首相に選ばれたあかつきには、2年以内に必ずカナダの国旗を作ってみせる」と一大キャンペーンを張り、1963年に見事当選。
誓約通りに1965年までに新国旗を制定するため、64年には本格的に旗のデザイン候補を絞って、その中から決定しようとしたわけですが…
ここへきてカナダという国が抱える根本的な問題、言うなれば「ダブル・ナショナリティ(二重の国民性)」が本格的に表面化してしまったのです。
そもそもイギリスとフランスという二つの国を内在しつつスタートしたカナダという国家。 つまりイギリス系カナダ人がイギリス国旗ユニオン・ジャックをモチーフにしたものを、と言えば、フランス系カナダ人はフランス王室の象徴「Fleur-de-lis(百合の紋章)」を入れるべきだと反論するような状態。
このような堂々巡りに終止符を打つため、そして「他国家からの従属から離れたカナダ」を象徴するものにするために、6ヶ月の長きに渡って議論を戦わせた結果、国会で7割以上の賛成を得たカナダの国木・サトウカエデ(メープル)をシンボルとした現在の『メープルリーフ旗』にようやく決定されました。
日本と同じ、赤白2色使い。 この赤と白は、1921年に時のイギリス王・ジョージ5世が『カナダの国色』として指定したもの。 両側の赤い帯は太平洋と大西洋で、中央のメイプルリーフの葉の先端の尖った部分と枝を合わせた12の数は、国を構成する10州と2準州(現在は3準州ですが)を表しているそうです。
さてさて、このメープルはカナダ全土に生殖する国木でありますが、ここでなぜメープルがカナダの象徴となったのか?ということに関して、ちょっと面白い逸話があります。
1860年、当時のプリンス・オブ・ウェールズ(英国皇太子)であったエドワード7世がカナダ・トロントを訪れました。
多くの人が皇太子を一目見ようと一般謁見の場に押しかけたわけですが、その時政府から出されたのが『参加するものは自国を象徴するものを身につけよ』という約定。
というわけでイギリス人は胸に薔薇を飾り、スコットランド人はアザミを飾ることになりました。
さて、困ったのはカナダで生まれ育った『カナダ人』の人たち。 はてさて、何をつけたものか?
その時代、カナダ国の象徴として認定されていたのは
ビーバー。
…無理です。「ビーバーは無理だ。」と
真剣に議論した結果、カナダへの移民が始まった当初から、様々な場面でシンボルとして多用されていた「カエデの葉」がよかろう、ということで、政府から改めて「メープル・リーフを着用のこと」という規則が発令されたのでした。 そしてこの時を境に、メープル・リーフはカナダの象徴として公的に認められる形となったわけです。
…「国家の中枢、国会の議題がビーバーってどうよ」とは、誰も突っ込まなかったわけですね…
参考までに、13の各州の旗もどうぞ。
アルバータ州Provicial color(州の色)である青がベース。 モチーフは州の紋章。 上部:イングランド国旗セント・ジョージ・クロス(白地に赤十字) 中央部:雪山(ロッキー山脈)、丘陵地、プレーリー 下部:麦畑
オンタリオ州旧国旗であるCanadian Red Ensignがベース。 モチーフは左肩にイギリス国旗のユニオンジャック、右に州の紋章(上部:イングランド国旗セント・ジョージ・クロス 下部:シュガー・メープル)
ケベック州別名「フルール・ド・リゼ」
古代フランス王室旗の白十字がベース。 モチーフは聖母マリアの象徴である、純潔を表した青地に白のフランス王家のイリス形紋章「フルール・ド・リ(fleurs-de-lis/ユリの花)」
サスカチュワン州州北部の森林地帯を表したグリーンと、南部の穀倉地帯を表した金がベース。 モチーフは左に州の紋章(上部:イギリス王家シンボルの右前足をあげたライオン 下部:3組の小麦束)、右に州花であるWestern red lily(ユリ)

ニューファンドランド・ラブラドール州海を表したブルー、人々の葛藤と努力を表した赤、雪と氷を表した白がベース。 モチーフは左がイギリス国旗ユニオン・ジャック、右がニューファウンドランドとラブラドールの二つの島を表した上下の三角形と、住民の希望に満ちた未来を示唆した金色の矢
ニューブランズウィック州モチーフは州の紋章。 上部がブランズウィックがイギリス王家とドイツ・ブランズウィック地方(ドイツ公爵家・ドイツ王家)縁の土地であることを表す、両王室のシンボルである金色のライオン。 下部が主産業であった造船業と航海が重要だった時代を表すスペインのガリオン船
ノバスコシア州州名はラテン語で「新しいスコットランド」の意味。 スコットランド国旗セント・アンドリュー・クロス(白地に青十字)がベース。 モチーフは州の紋章(中央部:スコットランド王家紋章金のライオン 周囲部:2重の囲いとフルール・ド・リ(fleurs-de-lis/ユリの花)
ブリティッシュコロンビア州モチーフは州の紋章。 上部がイギリス領であったことを表すイギリス国旗ユニオン・ジャックと王冠。 下部がカナダの最西端に位置する州であることを表した海と沈む太陽
プリンスエドワードアイランド州モチーフは州の紋章。 上部が英国ケント公エドワード王子とエドワード7世にちなんだ州名ということを表す、イギリス王家シンボルの金のライオン。 下部の左、3本の小さな樫の木は州の3つの郡、プリンス郡、クイーン郡、キング郡を表し、右の大きな樫の木はイギリスを表す。 州のモットーである「Parva sub ingenti」 (the small under the protection of the great/偉大なるものに守られた小さきもの)も同時に表現
マニトバ州 旧国旗であるCanadian Red Ensignがベース。 モチーフは左肩にイギリス国旗のユニオンジャック、右に州の盾の紋章(上部:イングランド国旗セント・ジョージ・クロス 下部:バイソン)
ヌナブト準州美しく豊かな大地と海と空、そして氷を表した黄色と白がベース。 モチーフは右に北極星(長老の知識とその指導的役割)と、中央にカナダの一部ということを表す赤のイヌクシュク。 イヌクシュクはイヌイット族が何もない北極圏で方向を知るための道標として積み上げる石の建造物。「安全」「希望」「友情」のシンボルでもある
ノースウェスト準州カナディアン・ペールと呼ばれる、白地(氷雪)にブルー(湖と海)のストライプがベース。 モチーフは準州の紋章。 上部:氷の白とBaffin湾とBeaufort海を結ぶ北西航路(North West Passage)を表す青のライン 下部左:南部の森林限界線(Tree-line)を表す波状ラインと森林地帯を表すグリーン 下部右:ツンドラ地帯を表す赤と重要な資源である金と毛皮(キツネ)
ユーコン準州 トリコロール・カラーがベース。 モチーフは州の紋章。 最上部:雪上に立つハスキー犬 中央上部:イングランド国旗セント・ジョージ・クロスと「リスの毛皮」を表す紋 中央下部:山を表す二つの赤い三角形と、ゴールドラッシュを表す4つの円、ユーコン川を表す二本の波状ライン 下部:州花のRosebay Willowherb(夾竹桃の一種)

まあそんなこんなで紆余曲折、波乱の歴史の果てにやっと誕生したカナダ国旗。 現在も旗が制定された2月15日は「Flag day(カナダ国旗の日)」として、国内いたるところで粛々と祝われています。 近い将来、「国民の休日」として制定される可能性もあるとか。 それほどカナダ国民にとって「自国の旗」を手に入れた事実は重く大きい、ということなのでしょう。
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